菱田技研工業株式会社 代表取締役 菱田 聡 氏
11月7日(金)に診断士シンポジウム大阪2025に参加しました。
企業セミナーとして菱田社長が講演された内容での気づきを共有させていただきます。
【事業転換のリアル】鉄工業からドローン開発へー中小企業が生き残るための視点
中小企業診断士として社長とお会いしていると、
「うちの業界は成熟している」「先代から続く事業の将来が見えない」
とよくお聞きします。
今回は、ある中小企業の “事業転換の軌跡” をご紹介します。
鉄工業からドローン開発へ。
大胆にも思えるチャレンジの裏には、学ぶべき視点が数多くあります。
その企業とは、菱田技研工業(旧・菱田伸鉄)です。
創業から100年以上続く同社は、鉄工業の撤退を経て、
ドローン開発企業へと生まれ変わりました。
代表・菱田社長が講演で語られた内容は、中小企業経営のヒントに満ちています。
“稼ぎ頭” が消えたとき、社長はどう動くか
同社はかつて月産4,000トンの鉄鋼製品を生産する工場を持つ企業でした。
しかし、バブル崩壊後の需要減により、事業継続が困難に。
ついには鉄工業の撤退を決断します。
事業を失うという最大の危機。
しかし菱田社長は、その後 「視界が360度開けた」 と語っています。
制約が消えたときに、社長はどこにチャンスを見るのか。
これは事業転換の本質的な問いです。
新しい挑戦の“入口”は、人とのつながり
撤退後の菱田社長が向かった先は、産創館の異業種交流会。
相談窓口に通い詰め、様々な支援者から刺激を受け、新たな方向性を探り続けました。
そこから始まったのが、ロボット・ドローンの開発。
大学との産学連携、補助金の活用、仲間づくりなどを試みました。
まさに“外に出たからこそ開けた道”でした。
中小企業こそ、外部リソースの活用度合いで未来が変わります。
社長一人で抱えすぎない、という大切な示唆があります。
ゼロからドローン企業へ:事業転換の成功要因
同社が開発したのは、一般的な空撮用ドローンとはまったく違う“特殊ドローン”。
・橋の裏側を点検するため、カメラを機体の上に搭載したドローン
・水を70m先へ噴射し続ける散水ドローン
・コンセントに刺すだけで飛ぶ“電源直結ドローン”
・壁に吸着し、ドリル作業までできる“壁面吸着親子ドローン”
そして2025年大阪・関西万博にも出展。
テレビや新聞でも多数取り上げられました。
では、成功の理由は何だったのでしょうか?
① 自社技術を活かした“勝てる領域”を選んだ
鉄工業時代に持っていた機械加工・設計技術を応用し、
“ニッチだけど困っている企業が確実にいる領域”に絞り込んでいます。
② 顧客の「現場の困りごと」から発想している
「危険な散水作業を何とかしたい」
「橋の裏側が撮影できない」
「電源さえあればすぐ飛ばしたい」
このような“現場課題”から開発が始まっている点は、中小企業の強みが活きた部分です。
③ 大学・支援機関との連携を最大限に活用
大学教授の専門性、行政や支援機関の補助金、技術支援。
外部の力を自社に取り込みながら進化しています。
“成功の裏側” にある、社長の覚悟
講演の中で印象的だったのは、菱田社長のこのような視点です。
「ロボットの本質はパワー増幅。必要な力を必要な場所に届ける、
その技術に必然性があるかどうか。」
ドローン開発でも“必然性”にこだわり続け、
「空を飛ぶ必要があるか」「ドローンである必然性は?」を徹底的に問う姿勢が見られます。
事業転換は“流行に乗る”のではなく、
自社の強みと市場の課題が交わる場所を見つけること。
その本質を体現している事例と言えるでしょう。
未来に向けて
菱田社長は2030年に向けて次の展望を語られています。
・開発・メンテナンス・運用の3部門体制をつくること
・カスタマイズを前提とした“プラットフォーム型の機体”をつくること
・自社で安全運用マニュアルを整備し、業界標準を目指すこと
中小企業が長期的な視点で「組織をどうつくるのか」を考えることの重要性が、
ここに現れています。
まとめ:事業転換は“大胆な一歩”ではなく、“積み重ねの結果”
今回の事例は、華やかな成功物語ではないかと思います。
むしろ、地道な挑戦と人とのつながりの積み重ねによって道が開けた好例です。
中小企業にとって事業転換とは、
・既存事業が厳しくなったときの“苦渋の決断”であり
・社外とつながり続ける“姿勢”であり
・小さな試行錯誤の積み上げであり
・自社の強みを問い直す“戦略的思考”であり
・社長自身の“学びと変化”の連続
ではないでしょうか。
必ず次の一歩につながるヒントがあると思います。


